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Author:チューリップバスケット
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期限付きの恋 No2
5月2日<期限付きの恋 No1>の続き】


時雄が東京に戻ってから半月が過ぎた。

猫の額ほどのベランダには、時雄と一緒に種を蒔いた朝顔のつるがぐんぐん延びてきて、初夏の訪れを今か今かと待ちわびている。梅雨のない北海道はこの6月半ば過ぎからが、1年で1番気持ちの良い時期だ。久しぶりに職場を抜け出して、お昼のお弁当を大通り公園で食べてみる。噴水を眺めながら、心地よい風に耳元をくすぐられ、時雄と初めて出会ったベンチに座り、熱くて短い日々を思い出している。

時雄と出会ったのは5月に入ってまもなくの事だった。
ライラックの花の下、ちょうど、ここのベンチで声をかけられ、1ヶ月の期限付きの恋と知りながらも、その妻子ある男と時を重ねた。想いの深さとは関係なく、世間一般では認められない恋である。40代もとうに過ぎ、もうすぐ50の声を聞くという歳頃の男は、例えて言うなら、熟成されながらも情熱を失っていない、いわば1番美味しい食べごろの果実のようだ。端正な顔立ちに似合わない饒舌さは、香しい匂いを放つ果実をさらに極上のものへと変える。

「玲美は綺麗だ。それに優しいね。僕が安らげる場所は玲美だけだよ。」
甘い言葉で私を酔わすが、時雄の携帯には引っ切り無しに電話やメールが入る。それは、淋しげな女を見ると、いてもたってもいられなくなり声をかけてしまう衝動の産物だろう。
時雄は幅が広い。関係の深さは別として、おおよその検討ではあるが、おそらく10代から60代くらいまでのお相手だろう。いやそれ以上かもしれない。そのくらい時雄はどんな相手であろうときちんと向き合い、心の奥底にさりげなく入っていける技術を持っているのである。それは天性のものなのか、時雄が歩んできた人生の中で培われてきたものなのか、はたまた両方であるのか、私には検討もつかないが、時雄を形成する殆どであり、彼の生きる証であるのは間違いない。私が隣に居ようが居まいがお構い無しに、携帯の待ちうけ音がなると、そそくさと確認するのである。
始めは驚き、堪えきれない感情が吹き出した。
以前の私ならば、何も感じなかっただろう。というより、感じないように事実から目をそむけていたと言った方がいいかもしれない。嫉妬は醜く下品な女がするものだと思っていたからだ。しかし、時雄には気がつくと、思いをそのまま言葉にしていた。どのように思われようと気にしなかった。全てを受け入れてくれる安心感が、彼にはあったのかもしれないし、1ヵ月という期限が私を大胆にさせたのかもしれない。要するに私は、彼には素直に甘えることができたのだ。
「私も時雄といると自分になれる。素直な気持ちを言えるの。」

時雄の言葉も私の言葉も、嘘偽りはない。お互いを目の前にして、真実を語っている。寄り添い合い、世の中のしがらみから解放された裸のままの2人がそこにいるのである。
ただそれは1ヶ月の間の話だ。
時雄が住み着いた私のアパートから、彼が本来の家に戻ると、それぞれの生活が新たにまた再開され、それぞれの人生がまたスタートする。

時雄と出会う前までの私は、時折自分で自分の気持ちが分からなくなるほど、感情を抑えていた。それは、子供の頃に、喧嘩の絶えなかった両親を見て育ったせいかもしれないが、感情をあらわにする事を私は極端に嫌った。汚い言葉が飛び交う家での生活は、それを否定するかのように、いつしか偽りの綺麗な言葉だけを選んで生きるようになっていた。
そんな私を変えてくれたのが、時雄である。
しかし時雄自身は、私を変えようと思ったわけでもなく、私に何を教えたわけでもない。いつものように淋しそうな女に声をかけ、相手の望む限りを尽くしただけである。それが彼の生きがいだからだ。
私は時雄と過ごした1ヶ月、心の底から泣いて笑った。生きていると肌で感じた。

時雄との最後の日は、この世の光がいっぺんに消えたかと思うほど暗闇に覆われ、3日3晩泣き続けた。
しかし泣き疲れた後に残ったものは、雨上がりの虹のように清々しい気分だった。
ふとベランダに目をやると、朝顔の葉から朝露の雫がぽたりと落ちていった。来月にはこの朝顔も綺麗な花を咲かせるであろう。

職場の近くの大通り公園は、穏やかな昼下がりを楽しむ人々が、今日も大勢集まっている。先月までライラック祭りが開かれ、にぎやかに褒め称えられていたライラックには、もう誰も見向きもしない。そんな周りの雑踏など気にもせず、来年また綺麗な花を咲かせるために精一杯、太陽の光を受けている。

「思いのままに生きているから、花は美しいんだよ。」
時雄が私にくれた最後の言葉だった。
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2010.06.15(Tue) | 短編物語のお話し | cm(10) | tb(0) |

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この記事へのコメント
1266. こんばんは。
ご訪問・コメント有難うございました。
御礼申し上げます。

最後のことば
「思いのままに生きているから、花は美しいんだよ。」

これ、にくいねっ。決まり!
応援ポチ!
サム | 2010.06.15 01:11 | edit
1267. No title
ふうむ…。
チューリップバスケットさんには、小説の文才があるのでは~o(^∇^)o
素晴らしい~♪

時雄と玲美が、札幌と小樽でデートしたらこんな感じでしょうか。
札幌と小樽旅情編をこの記事に触発されてアップします。
マイガーデンでアップします。
物語りのチャンの感じたイメージ写真です。
チャン | 2010.06.15 01:34 | edit
1270. Re:サムさんへ
コメントありがとうございます。
北海道のお花たちは長い冬が終わり、いっぺんに咲き出します。まるで競争しているみたいに(笑)その春の花たちの競争がひと段落した頃、ライラックが咲き始め、散っていくのです。
そんな思い思いに自由に咲く花たちを見ていると「思いのままに生きているから、花は美しいんだよ。」そんなフレーズが浮んできました!
最後まで読んでいただいて、嬉しいです~。
チューリップバスケット | 2010.06.15 14:29 | edit
1271. Re:チャンさんへ
コメントありがとうございます。
小説の文才なんて、とんでもありません(汗)
気まぐれに思いつくままの走り書きなので、読みにくいところもあったかと思いますが、ご了承くださいね!

『札幌と小樽旅情編をこの記事に触発されてアップします。マイガーデンでアップします。物語りのチャンの感じたイメージ写真です。』
小説と写真のコラボですね~。先ほど覗わせていただきました!北海道らしい青い空の素敵な写真です。あの空の下の時雄と玲美の姿が想像できます。
玲美のアパートが札幌なので、小樽にも時雄を連れて行き、一緒に運河を見たかもしれませんね。
最後まで読んでいただき、しかも、連想される写真までUPしていただき、とても嬉しいです♪ありがとうございました。
チューリップバスケット | 2010.06.15 14:56 | edit
1273. どんな恋も恋は恋。
とても切なくもあり…でも大人同士の恋…
納得していても別れは女性は辛いですね。。。
でも確実に“玲美”は前より輝いている様に思えました☆

チューリップバスケットさん、スゴい文才!また書いて下さいね(^^ゞ
香奈子 | 2010.06.15 21:42 | edit
1274. Re:香奈子さんへ
コメントありがとうございます。
『でも確実に“玲美”は前より輝いている様に思えました☆』
そうなのですよ~。
年下の駿、妻子ある時雄、恋をするたびに、成長していく姿を描いてみました♪別れは切ないけれど、そこから学ぶ事は必ずあると思うのです。
お忙しい中、読んでいただいて嬉しいです!
チューリップバスケット | 2010.06.15 23:28 | edit
1275. No title
小学校は札幌でした。高校は根室で三年の二学期まで。
流れ者で千葉県~東京。
時々お邪魔しています。
良い感じですね。

これにかぶせて、詩が書けそうですよ。
山猫軒 | 2010.06.16 16:47 | edit
1276. Re:山猫軒さんへ
はじめまして。
コメントありがとうございます。
札幌にいらしたこともあるのですね。大通公園やライラックが、山猫軒さんの楽しい思い出として存在していたなら嬉しいなぁ..なんて思います。

『これにかぶせて、詩が書けそうですよ。』
山猫軒さんのブログに、いつもお邪魔し、楽しませていただいております。
詩の料理店さん!もしよろしければ、この食材(テーマ)で詩をお作りしていただけないでしょうか?是非ご馳走になりたいと思います♪
お時間のある時で構いませんので..。
チューリップバスケット | 2010.06.16 17:18 | edit
1277. こんばんは。
ご訪問・コメント有難うございました。
御礼申し上げます。

土日は、のんびりさせていただきました。
親しい仲間は良いもです。有難いものです。
実感して帰ってまいりました。
応援ポチ!
サム | 2010.06.16 20:07 | edit
1278. Re:サムさんへ
たまに違った環境に身を置くのも良いですよね!
サムさんの感性が刺激された週末だったのではないでしょうか..。
共に高めあえる仲間同は、大切にしたいですね。
チューリップバスケット | 2010.06.16 21:44 | edit
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